ABC検診とH.pylori抗体検査

胃がんは日本人にとって大きな健康問題です.毎年多くの人が胃がんに罹患し、亡くなっています.

胃がんの原因の一つとして、H.pyloriという細菌の感染が挙げられます.

この細菌は胃の粘膜に潰瘍や炎症を引き起こし、長期的には胃がんのリスクを高めます.

H.pyloriの感染は除菌治療で予防や治療が可能ですが、そのためには正確な感染検査が必要です.

H.pyloriの感染検査には様々な方法がありますが、今回は検診でよく利用されている、血清H.pylori抗体検査とペプシノゲン法を併用するABC分類法について、抗体検査を中心にその利点と問題点を整理してみたいと思います.

ABC分類法とは

ABC分類法とは、血清H.pylori抗体検査とペプシノゲン法の結果によって、胃がんリスクの高低をA・B・C・D・Eの5つの群に分ける方法です.

以下に各群の定義と胃がんリスクを示します.

  • A群:H.pylori抗体陰性、ペプシノゲンI/II比1.5以上
  • B群:H.pylori抗体陽性、ペプシノゲンI/II比1.5以上
  • C群:H.pylori抗体陽性、ペプシノゲンI/II比1.5未満
  • D群:H.pylori抗体陰性、ペプシノゲンI/II比1.5未満
  • E群:H.pylori除菌歴あり

A群はH.pylori感染がなく、胃粘膜萎縮もない健常胃であり、胃がんリスクは最も低いとされます.

B群はH.pylori感染があるものの、胃粘膜萎縮はまだ進行しておらず、胃がんリスクはやや高いとされます.

C群はH.pylori感染によって胃粘膜萎縮が進行し、胃がんリスクは高いとされます.

D群はH.pylori感染が自然に消失した後に残った胃粘膜萎縮であり、胃がんリスクは最も高いとされます.E群はH.pylori除菌治療を受けた後であり、胃がんリスクは除菌前より低下するとされます.

ABC分類法の利点

ABC分類法の利点は、血液検査のみで簡便に胃がんリスクを評価できることです.内視鏡検査に比べて費用も安く、受診者の負担も少ないです.

また、ABC分類法は胃がん発生の自然史に即した理にかなった評価法であり、各群で胃がん発見率が異なることが報告されています.

ある研究では、A群では0.2%、B群では0.6%、C群では1.2%、D群では3.6%の胃がん発見率でした.

このように、ABC分類法は感染診断を用いた有効なリスク評価法であると言えます.

ABC分類法の問題点

しかし、ABC分類法にも問題点があります.

まず、ABC分類法はまだ死亡率減少効果を示す疫学研究がなく、対策型胃がん検診としては推奨されていません.

がん検診では、がん発見率が高いだけでは不十分で、死亡率減少効果の科学的証明が必要です.

ABC分類法は、胃がん発見率は高いものの、それが死亡率減少につながるかどうかは不明です.

次に、ABC分類法による胃がん面診の感度は97.2%、特異度は21.1%と報告されています.

感度は高いですが、特異度はあまりに低いです.

これは偽陽性で不利益を被る者が多いことを示します.例えば、B・C・D群に分類された者のうち、実際に胃がんになるのはごく一部であり、ほとんどの者は不要な内視鏡検査や治療を受けることになります.

これは医療費の増大や医療資源の無駄にもつながります.

また、ABC分類法には検査精度にも問題があります.

高度萎縮にもかかわらずA群に誤分類される例があります.

また、E群に分類すべき除菌後例が受診者の記憶違いでA群に混じることもあります.

さらに、低率ながらH.PLylori未感染胃がんも発生します.

つまり、A群は「がんが発生しない群」ではなく、ABC分類法のみを単独で検診に用いて、A群を内視鏡の対象から外すことは危険です.

H.pylori抗体検査の問題点

血清中のH.pylori 抗体の量を測定する検査ですが、そのカットオフ値はどのように決められているのでしょうか?

カットオフ値とは、H.pylori 感染の有無を判定するために設定された基準値です.

カットオフ値以上の抗体量があれば感染していると判断され、カットオフ値未満なら感染していないと判断されます.

しかし、実際には、カットオフ値未満でも感染している場合や、カットオフ値以上でも感染していない場合があります.

これは、H.pylori 感染は一度すると抗体が長期間残るためです.

H.pylori に感染したことがある人は、除菌治療を受けても抗体量がすぐには減りません.

そのため、除菌後もカットオフ値以上の抗体量を示すことがあり、これを既感染と呼びます.

逆に、H.pylori に感染している人でも、抗体量が低い場合があります.

これは、H.pylori の菌量が少なかったり、免疫反応が弱かったりすることが原因で、これを陰性高値と呼びます.

以前は、カットオフ値は10 U/mL とされていましたが、陰性高値の範囲である3 U/mL 以上10 U/mL 未満では、既感染者が約8割を占めており、胃がんのリスクが高いことが分かってきました.

そこで、カットオフ値が3 U/mL である検査キットを使用するか抗体量を実際に定量することが正確な診断に繋がるとされています.

対策型として胃カメラによる胃がん検診をオススメ

ABC分類法は血液検査のみで胃がんリスクを評価できる便利な方法ですが、死亡率減少効果や特異度の低さ、検査精度の問題など、対策型胃がん検診として用いるには不十分な点があります.

しかし、ABC分類は費用対効果の観点からも有効な方法と考えられています.

毎年の内視鏡検査よりも、胃がんの予防や早期発見に効果が高く、費用も安いという研究結果があります.

このような利点から、任意型検診で行われることが多いです。

しかし、ABC分類は内視鏡検査を受ける人を限定するため、対策型胃がん検診としては推奨されていません.

対策型としてはやはり胃カメラによる胃がん検診をオススメします。