感染性胃腸炎にご注意を!
今回は、冬に流行しやすい感染症の一つである感染性胃腸炎についてお話ししたいと思います。
これは神戸市の感染性胃腸炎の年末から年始の動向です。
やはり年末に向けて増加傾向となり、お正月を終わった現在も流行が持続している状況です。
目次
感染性胃腸炎の多くはウイルス感染
感染性胃腸炎とは、細菌やウイルスなどの病原体によって胃や腸が炎症を起こし、下痢や嘔吐などの症状を引き起こす感染症です。
感染性胃腸炎の中でも、冬季に流行するウイルス感染による胃腸炎を冬季下痢症と呼びます。
冬季下痢症の主な原因は、ノロウイルスやロタウイルスなどのウイルスです。
これらのウイルスは、感染力が強く、少量のウイルスでも感染が成立することがあります。
感染後、12~48時間ほどで発症し、下痢、嘔吐、嘔気、腹痛、発熱などの症状が現れます。
通常は1~3日間ほどで自然に回復しますが、高齢者や基礎疾患を持つ人では重症化することもありますので、特に注意が必要です。
また、症状が消失した後も、一定期間はウイルスが便中に排泄されるため、感染予防のためにも注意が必要です。
ウイルスの感染経路は2パターン
ノロウイルスは、主に二つの方法で感染しますが、一つ目は食品感染です。
ノロウイルスは人間の腸内で増殖し、便と一緒に排出されます。
この便が河川や海に流れ込むと、そこに住む二枚貝や牡蠣などの貝類に付着します。
これらの貝類を生で食べると、ノロウイルスが体内に入り、感染します。
また、貝類を調理する際に使った道具や手が汚れたまま、他の食品に触れると、それらの食品もノロウイルスに汚染されます。
このようにして、食品を通じて感染することがあります。
もう一つは、人から人への感染です。
ノロウイルスに感染した人は、下痢や嘔吐などの症状を起こします。
このとき、糞便や嘔吐物には大量のノロウイルスが含まれています。
これらを処理するときに、手や口にウイルスが付着すると、自分自身が感染するだけでなく、他の人にも感染させる可能性があります。
また、糞便や嘔吐物が乾燥して空気中に飛散すると、それを吸い込んだり、目や鼻に入ったりすることで、感染することがあります。
このようにして、人から人へ感染することがあります。
食品からの感染対策
感染予防のためには、ノロウイルスに汚染された食品を摂取しないことが重要です。
そのためには、牡蠣やあさりなどの二枚貝を食べるときは、十分に加熱することが必要です。
加熱することで、ノロウイルスを不活化させることができます。
具体的には、食品の中心温度を 85~90℃以上で90 秒以上加熱することが推奨されています。
ただ、中心温度が85~90℃以上って・・・美味しくなくなるわ!!ってことなんですよね。
味をとるか安全性をとるか、なかなか難しいところです。
また、貝類を調理する際には、別の道具や手を使うか、よく洗って消毒することも大切です。
これらの対策を行うことで、食品感染のリスクを減らすことができますが、当然100%予防出来るわけではありません。
感染者の隔離
感染者の隔離がそれぞれの家庭で必要かどうかは状況次第かと思いますが、高齢者や受験生がいたりすると必要な対策かと思います。
特にノロウイルスは非常に感染力が強いので、感染者やその周囲の人は、感染予防のための対応をしっかりと行う必要があります
人から人への感染を防ぐためには、感染した人やその周囲の人は、感染予防のための対応を行う必要があります。
感染予防のための対応としては、以下のようなものがあります。
- 個室隔離:ノロウイルス感染症を疑う場合は、できるだけ個室で隔離することが望ましいです。これにより、他の患者や医療者にウイルスが広がるのを防ぐことができます。
- 時間や空間を空ける:個室隔離が難しい場合は、感染者と非感染者の間に時間や空間を空けることで対応します。例えば、感染者と非感染者の診察や治療を別の時間帯に行ったり、感染者と非感染者のベッドや椅子を離したりします。これにより、ウイルスの接触や飛散を減らすことができます。
- パーテーションやカーテンを使用する:時間や空間を空けることも難しい場合は、感染者と非感染者の間にパーテーションやカーテンを使用します。これにより、ウイルスの視覚的な遮断や飛散の抑制を行うことができます。
石けんでの手洗い
手洗いで注意が必要な場合もノロウイルスを疑うときです。
ノロウイルスは、他のウイルスと違って、エンベロープと呼ばれる脂質の膜を持っていません。
エンベロープは、ウイルスが細胞に侵入したり、外部の環境に適応したりするのに役立ちますが、アルコールや熱などに弱いという特徴があります。
エンベロープを持たないノロウイルスは、アルコールや熱に対して耐性があるので、アルコール消毒では不活化できません。
そのため、ノロウイルスに感染した人やその周囲の人は、アルコール消毒だけではなく、石けんと流水による手洗いを行う必要があります。
石けんは、ウイルスの表面にあるタンパク質や脂質を分解する作用があります。
流水は、ウイルスを手から洗い流す作用がありますので、石けんと流水による手洗いを行うことで、ウイルスの数を減らし、感染のリスクを低減することができます。
石けんと流水による手洗いを行うときは、以下のようなポイントがあります。
- 水で手を濡らす:水で手を濡らすことで、石けんの泡立ちを良くし、ウイルスの除去を助けます。
- 石けんで手をこすり合わせる:石けんで手のひら、指の間、指先、爪の下などをこすり合わせることで、ウイルスの表面を分解します。手をこすり合わせる時間は、20秒以上が目安です。
- 水で手をすすぐ:水で手をすすぐことで、ウイルスを手から洗い流します。水の温度は、ぬるま湯が適切です。熱い水は、手の皮膚を傷める可能性があります。
- 清潔なタオルで手を拭く:清潔なタオルで手を拭くことで、手の水分を取り除きます。水分が残っていると、ウイルスの増殖を促す可能性があります。タオルは、他の人と共有しないことが望ましいです。
感染予防は少し長めにしましょう
ノロウイルスは、症状が消えても、まだ体内に残っていることがあります。
このとき、便と一緒にウイルスが排出されることがあります。
このウイルスが他の人に感染すると、感染が広がってしまいます。
このようにして、再感染が起こることがあります。
再感染を防ぐためには、症状が改善しても、感染予防策を続けることが必要です。具体的には、以下のようなことを行います。
- 感染予防期間を守る:症状が消えても、3~7日間は感染予防策を続ける必要があります。この期間は、ウイルスが便中に排泄される可能性がある期間です。この期間中は、学校や職場などに行かないことが望ましいです。また、免疫機能が低下している人は、ウイルスが長く体内に残ることがあるので、さらに長い感染予防期間が必要です。
- 手洗いや消毒を徹底する:手洗いや消毒は、感染予防の基本です。特に、トイレの後や食事の前などは、石けんと流水による手洗いを行います。アルコール消毒は、ノロウイルスには効果がありません。また、トイレや洗面所などは、次亜塩素酸ナトリウムなどで消毒します。これにより、ウイルスの付着や飛散を防ぐことができます。
- 食品の衛生管理を行う:食品の衛生管理も、感染予防に重要です。特に、牡蠣やあさりなどの二枚貝は、ノロウイルスに汚染されていることがあるので、十分に加熱することが必要です。また、調理する際には、別の道具や手を使うか、よく洗って消毒することも大切です。これにより、食品感染を防ぐことができます。
汚染された環境からの感染対策
嘔吐物や下痢便に含まれるウイルスが環境に残り、乾燥して空気中に飛散すると、塵埃感染と呼ばれる現象が起こります。
これは、ウイルスが乾燥した環境下でも 28 日間以上生存できるためです。
塵埃感染は、医療施設や介護施設などで集団感染を引き起こす原因となることがあります。
そのため、ノロウイルス感染症の予防や対策には、嘔吐物や下痢便の適切な処理と消毒が重要です。
嘔吐物や下痢便を処理する際には、病院や施設では手袋やガウン、マスクなどの防護具を着用し、石けんと流水での手洗いを徹底します。
また、嘔吐物や下痢便を取り除いた後には、次亜塩素酸ナトリウム溶液で消毒を行います。
次亜塩素酸ナトリウム溶液は、ノロウイルスに対して有効な消毒剤です。
消毒する際には、ベッドや床、トイレ、ドアノブなど、患者が触れた可能性のある場所を念入りに拭き取ります。
金属などに使用する場合は、腐食する可能性があるので消毒後に水で拭き取ります。
これらの対策を行うことで、ノロウイルス感染症の拡大を減らすことができます。
感染性胃腸炎のまとめ
- 感染性胃腸炎は、細菌やウイルスによる胃腸の炎症で、冬季に流行することが多い
- 冬季下痢症の主な原因は、ノロウイルスやロタウイルスで、食品や水、手指や物品、嘔吐物や便などから感染する
- 症状は、下痢、嘔吐、嘔気、腹痛、発熱などで、通常は1~3日で回復するが、高齢者や基礎疾患を持つ人は重症化することもある
- 予防法は、食品の衛生管理や手洗い、消毒などで、特に牡蠣やあさりなどの二枚貝は十分に加熱することが必要である
以上、感染性胃腸炎について説明してきました。
生で新鮮な物が美味しくて、胃腸炎を起こすリスクが高いことも事実です。
一方で、胃腸炎になると気持ち悪いですし、美味しい物どころか食事がしっかり食べられません。
また、感染性胃腸炎だと思っていたら他の腸の病気のこともありますので、心配な方は受診をご検討ください。
日本消化器病学会 専門医
日本消化器内視鏡学会 専門医
日本消化器内視鏡学会 上部消化管内視鏡スクリーニング認定医
日本消化器内視鏡学会 下部消化管内視鏡スクリーニング認定医
日本炎症性腸疾患学会
日本内科学会 認定内科医