感染性腸炎後IBS

現在、感染症の流行状況としては胃腸炎が最多の状況になっています。

兵庫県/兵庫県感染症情報センター (hyogo.lg.jp)

胃腸炎でおなかの調子を崩した後からしばらくすっきりしないことがありませんか?

今回は、この感染性腸炎後のすっきりしない症状に関して説明します。

感染性腸炎後過敏性腸症候群(PI-IBS)

感染性腸炎の後のすっきりしない病態を感染性腸炎後IBS(PI-IBS)と呼びます。

まず、過敏性腸症候群(IBS)は、腸の検査をしてもただれや腫瘍などの器質的異常が認められないにもかかわらず、慢性的に腹部の張りや不快感、腹痛を訴えたり、下痢や便秘などの便通の異常を繰り返したりする疾患です。

大腸カメラで異常がないことを確認した上で診断されます。

ストレスや心理的な要因が影響することも多く、生活習慣の改善が治療の第一歩です。

さらに、感染性腸炎の後にIBS症状が発症することがあり、この病態を感染性腸炎後IBS(PI-IBS)と呼びます。

つまり、PI-IBSは、感染性腸炎を経験した後に発症する過敏性腸症候群(IBS)の一種です。

PI-IBSは感染性腸炎後の機能障害

PI-IBSの発症は、感染性腸炎が治った後にも、消化管の機能に変化が生じることが原因とされています。

感染性腸炎とは、細菌やウイルスなどの病原体によって引き起こされる腸の感染症で、発熱、嘔吐、下痢などの症状が現れます。

PI-IBSは、感染性腸炎の症状が治まった後に、便中細菌培養陽性の確認や、発熱、嘔吐、下痢のうち2項目以上を示す症状があった場合に診断されます。

Rome Ⅳ診断基準にもとづく感染性腸炎後過敏性腸症候群(PI-IBS)の診断基準

繰り返す腹痛が,最近3カ月のなかで,平均して1週間のうち少なくとも1日以上を占め,以下の2項目以上の特
徴を示す:
a)排便に関連する
b)排便頻度の変化に関連する
c)便形状(外観)の変化に関連する
2.急性感染性腸炎の寛解後に速やかに症状が発現する
3. 便培養検査で陽性,または以下の2つ以上の急性症状の存在によって診断された感染性腸炎:
a)発熱
b)嘔吐
c)下痢
4. 上記の急性感染症の発症前にはIBS診断基準を満たしていない

また、感染後に初めてRome IV診断基準を満たすIBSを発症した場合にもPI-IBSと診断されます。

感染性腸炎後にPI-IBSを発症する確率は約10%

症状としては、下痢と便秘の両方が見られる混合型も下痢型の便通異常のこともあります。

しかし、PI-IBSの患者と他のIBS患者との間には、臨床的な特徴に明らかな違いはありません。

そのため、PI-IBSは発症前の感染性腸炎のエピソードが重要になりますので、問診が非常に大切です。

研究によると、感染性腸炎の罹患者を半年以上追跡した結果、PI-IBSの出現率は4~32%(平均10%)と報告されており、非感染者の新規IBS発症率(0.35%)に比べて約6倍も高いことがわかっています。

これは、感染性腸炎を経験した人々が、感染後に機能性消化管疾患を発症しやすいことを示しています。

PI-IBSの発症メカニズムとしては、腸管内の炎症後に消化管機能の変化が生じることが示唆されています。

このため、PI-IBSは原因が明確なIBSの自然発症モデルとして注目されており、PI-IBSについての詳細な研究は、IBS全体の病態生理を理解する上で重要です。

また、PI-IBSの診断には、他の疾患との鑑別が必要です。

これには、腸管における寄生虫・原虫感染症、再発性・持続性の細菌感染症、炎症性腸疾患、消化器癌、内分泌代謝疾患、薬物の副作用などが含まれます。

PI-IBSのリスク因子

PI-IBSは、感染性腸炎の発症後に発生する可能性がある状態で、特定のリスク因子が関連しています。

1PI-IBSの発症リスクには以下の様なものが挙げられています。

  • 感染中の持続的または頻回の下痢
  • 激しい腹痛
  • 血便
  • 発熱
  • 体重減少

これらの症状は、特に女性や若年者、精神症状を持つ人々において、後にIBSが発症するリスクを高めることが示されています。

2000年にカナダのウォーカートンで発生した水質汚染事故では、Escherichia coli O157やCampylobacter jejuniなどの原因菌により、多くの人々が感染性胃腸炎を発症しました。

この事故に関する追跡調査では、感染者の約30%がIBSを発症したことが報告されています。

さらに、遺伝的要因もPI-IBSのリスクに影響を与える可能性も示唆されています。

心理社会的要因もPI-IBSの発症に関連しており、ストレスイベントの多い人々や精神症状を持つ人々がリスクを持つことが報告されています。

喫煙もまた、PI-IBSの有意なリスク因子です。

さらに、感染の種類によってもPI-IBSのリスクが異なり、Salmonella感染者よりもCampylobacterやShigella感染者の方がIBS発症のリスクが高いことがわかっています。

ノロウイルスやランブル鞭毛虫感染後にもIBSが発症しやすいことが明らかになっており、これらの感染源による胃腸炎は比較的軽度の粘膜障害を引き起こすことが多いです。

しかし、感染性腸炎の発生頻度が高い地域でもIBSの有病率が必ずしも高くないことから、消化管粘膜障害の程度だけではPI-IBSの発症を推測することはできません。

腸内細菌叢の変化も原因の一つ

PI-IBS患者の腸内細菌叢は、一般的なIBS患者とは異なる特徴を持っています。以下に、PI-IBSと腸内細菌叢の関連性について説明します。

PI-IBS患者は、一般的なIBS患者と同様に腸内細菌叢の異常が確認されます。

しかし、各菌種の構成率は異なっており、PI-IBS患者ではBacteroides門が豊富であり、一般的なIBS患者ではFirmicutes/Bacteroides比が増加しています。

また、PI-IBS患者では酪酸産生菌の一種であるSubdoligranulum variabileの構成比が減少しています。

つまり、感染性腸炎後の腸内細菌叢の変化が症状に繋がっている可能性があります。

結局、胃腸炎後は誰しもが起こりえる病気です

胃腸炎後にはまず腸内環境を整えていくことが重要ですが、炎症性腸疾患や他の病気が隠れている可能性もありますので、長引く下痢や腹痛の場合は大腸カメラを検討してみることも良いと思います。

なにか重大な病気なんじゃないかと心配することもまた症状につながってしまいます。

お困りの方は一度ご相談をお待ちしています。