World IBD Day ~IBDを理解する日~

みんなでIBDを知ろう

5月19日はWorld IBD Dayとして世界各国でIBDの啓蒙活動として様々なイベントが開催されます。19 May, World IBD Day – Crohn’s disease and ulcerative colitis

わたしの地元である姫路では、姫路城がIBDのシンボルカラーである紫色にライトアップされます。

実はわたしがWorld IBD Dayの存在を知ったのは、姫路城が紫色になったことでした。

このイベントは、潰瘍性大腸炎やクローン病をはじめとした炎症性腸疾患と向き合う患者さんや支える方々が繋がることが出来る、IBDの啓発活動です。

その他にも日本では、5月16日~5月19日の期間に、武田薬品がローソンが展開しているアートトイレの取り組みを通じて、トイレの重要性のきっかけ作りを行っています。

IBD患者さんに寄り添い、貢献するためのIBD認知度向上を目指した取り組みについて

全てのIBDの患者さんが常にトイレを気にする必要があるわけではないですが、病気の勢いがあるときには、出かける際に常にトイレの場所を念頭に移動する必要があります。

最近はトイレを汚くなるのが困るからといって、トイレの使用を制限するコンビニや娯楽施設もありますが、是非困っている方々のために広い心でトイレも開放して頂ければ幸いです。

潰瘍性大腸炎の患者数は22万人以上

さて、話は前後しますが、炎症性腸疾患はわたしのライフワークとして取り組んできました。

その中でも最も患者数の多い潰瘍性大腸炎についてお話したいと思います。

潰瘍性大腸炎という名前もこの10年ほどでかなり認知度が上がってきたと思います。

タレントさん、女優さん、プロ野球選手、陸上選手など非常に多くの方が潰瘍性大腸炎であることを公表しています。

このような仕事の方々がなりやすい訳ではなく、それだけ多くの方が発症している病気で、難病ではあるものの珍しい病気ではなくなってきているということです。

患者数を把握することは難しいですが、軽症例も含めると約22万人かそれ以上と推測されています。

Murakami Y, et al. J Gastroenterol. 2019;54(12):1070-7.

患者さんが増加したことで病気について多くのことが分かってきていましたので、病気を治してしまうことは出来なくても、色々な治療薬を駆使することで、症状をコントロールすることは出来るようになってきました。

もちろん、大学病院にいると、どんな治療法でも上手く行かないような患者さんや発症して間もなく週単位で悪くなっていく患者さんにも出会います。

しかし、なんとか外来に来て頂けるくらいの病気の勢いであれば、適切な診断と治療でなんとか出来ることが多いと感じています。

IBD診療の難しさは診断にあり

適切な診断と治療とお話しましたが、ここが実は最も難しいところです。

大腸がんであれば、組織の中にがん細胞がみえるかどうかというのが決定的な証拠です。

一方で、炎症性腸疾患の診断はあくまで総合判断です。

実は診断の定義というものが世界的にも存在しておらず、症状・内視鏡・病理組織などの全てを合わせての診断になります。

この中でもわたしが専門としてきた内視鏡検査(大腸カメラ)は特に重要な役割を果たしています。

病気の診断、範囲、重症度など治療を選択するうえで重要な情報が大腸カメラからは非常に多く得られます。

しかし、最初の内視鏡診断が間違うと、その後ずっと間違った道を辿ることになりますので、IBDを疑う患者さんに最初に大腸カメラをする責任というものをわたしは常に肝に銘じています。

さらにIBDの患者さんにとって、大腸カメラはその後の人生で何度も受ける必要がありますので、最初の印象が悪くならないように、いつも以上に気合いを入れて頑張ります。

困ったらIBD専門医をgoogleで調べよう

最初の症状が下痢や血便といった消化器内科としては比較的ありふれた症状ですので、全ての患者さんがIBDを専門で診ている医師の診察を受けるわけではありません。

もちろん、IBDを専門にしてきたわたしたちにしか診れない病気だとも思っていません。

しかし、わたしたちIBD専門医(ちなみにまだ専門医という資格が存在していませんので、経験として専門としてきたという意味です)にしか出来ない診断や治療も多くあると感じています。

例えば、これはPSLというステロイドの使い方をみたものです。

Matsuoka K, et al. J Crohns Colitis. 2020.

初期投与量はPSL 30mg以上が適切なはずですが、過半数以下しか適切に使用出来ていません。

ガイドラインや学会の啓蒙活動により多くの消化器内科医がIBDを診療できるようになってきましたが、まだまだ十分ではないというのが現状です。

難病という得たいの知れない名前までつけられた病気の診断を受けたら、色々なことが心配になると思いますので、心配を少しでも減らせるだけの知識や経験というものもわたしたち専門医の力の見せ所です。

わたしは診断した日に病気の1から10まで一通りを説明するようにしています。

患者さんにも病気を知って頂きたいのですが、ネットでは誤った情報が流れていることもありますので、最初に正しい情報を伝えるよう心がけています。

IBD治療の目標は普通の生活を送ること

”IBDに年齢は関係ない”という言葉通り、IBDは若い年齢から発症する病気です。

人生において若いときほど人生の分岐点は多く存在しますが、IBDはそんなこと考慮してくれません。

人生の大事なときに発症することや悪くなることもあります。

最近で最も有名な潰瘍性大腸炎の患者といえば、陸上男子100メートル元日本記録保持者である桐生祥秀さんです。

【桐生祥秀、再始動】休養の理由と次の目標 – YouTube

陸上選手のピークは本当に短い、なのにピークに向かうまさにその時に発症しました。

このように病気せいで人生が大きく違ってしまうこともあるでしょう。

わたしのIBD診療において一番大事にしてきたことは、患者さんがIBDによって人生を狂わされないようにすること、出来るだけ病気を忘れて日常生活をしてもらえるようにすることです。

そこには薬の選択だけでなく、診察時間もありますので、開業するまでは心苦しく感じていることもありました。

でも、今は午前だけでなく、みなさんの仕事終わりの時間にも診察できますし、土曜日も大丈夫です。

これからも1人でも多くのIBD患者さんが普通の生活を送れるようにIBD啓蒙活動を継続していきたいと思います。