逆流性食道炎~その症状は胃酸のせいかも?

逆流性食道炎という病名を聞かれたことがある方も多いのではないでしょうか?

症状は胸やけ、みぞおちの痛み、呑酸だけでなく、喉の違和感や咳など非常に多彩であることも特徴です。

最初に受診した循環器内科や呼吸器内科の先生から消化器内科に紹介されて、逆流性食道炎ということも珍しくありません。

患者数も年々増加傾向となっており、高齢者だけでなく小児科でも珍しくない病気となっています。

今回は、そんな逆流性食道炎(GERD)について解説していきます。

酸が戻るだけが逆流性食道炎ではない

逆流性食道炎とは言いますが、酸の逆流だけが問題な訳ではありません。

私たち内視鏡医は食道の粘膜がどれくらい障害を受けているかでGERDの診断や重症度をロサンゼルス分類で評価してきました。

しかし、この分類で評価が出来るのは食道に粘膜傷害がある場合だけです。

実際には粘膜傷害がない場合も多くあり、酸の曝露だけではなく、食道の知覚過敏も相まって症状が出現すると考えられています。

従って、逆流性食道炎と言っても以下のように4つに分類されます。

  • びらん性GERD
  • 病的な酸逆流を認めるNERD
  • 病的な酸逆流はないが、症状と逆流の関連がみられる逆流過敏症
  • 病的な酸逆流がなく、症状と逆流との関連も見られない機能性胸やけ

日本人の有病率は約10%で子供でもあり得る

現在、日本人におけるびらん性GERDの有病率は約10%とされています。

GERDの約半数が非びらん性GERD(NERD)であるとすれば、約20%くらいの人が広義のGERDということになるでしょうか。

1990年代は約5%と言われていましたが、年々増加傾向となっています。

しかも、以前は高齢者の病気だと思われていましたが、若い方にも増えて来ていますし、消化器内科医としても小学生のお子様の受診も増加している印象があります。

小学生だと小児科を受診されることが多いかと思いますが、実は当院に相談に来られる小学生の方も多いです。

GERDを引き起こす原因

GERDは食道の酸曝露と知覚過敏であると説明しましたが、その状態を引き起こす要因もいくつか分かっています。

  • 胃酸分泌の亢進
  • 逆流防止機構の低下
  • 食道クリアランスの低下胃酸分泌の亢進

胃酸分泌の亢進

以前は、日本人の胃酸分泌能は欧米人と比較して低いと言われてきました。

しかし、食生活も含めた環境の変化により日本人の胃酸分泌能は増加してきました。

もう一つ、日本人の胃酸分泌に影響を与えたことと言えば、H.pylori感染でしょう。

H.pyloriは胃がんや胃潰瘍との関係がよく知られていますが、H.pyloriが胃内に存在することにより、慢性炎を生じ、胃酸分泌能は徐々に低下します。

一方で、日本でのH.pylori感染率の低下と除菌治療の推進によりH.pylori現感染の方は減少しました。

結果として、胃酸分泌能が保たれている方が増加し、GERDの患者数の増加に繋がったと考えられています。

ですので、まずは過剰になった胃酸分泌を抑制することがGERD診療の第一歩であると言えます。

逆流防止機構の低下

食道と胃のつなぎ目には下部食道括約筋(lower esophageal sphincter: LES)があって、胃から胃酸が戻ってこないような逆流防止機構で重要な役割を果たしています。

この逆流防止機構が低下する1つの原因が食道裂孔ヘルニアです。

食道裂孔ヘルニアは解剖学的な問題ですが、これがあると食道と胃のつなぎ目が緩くなってしまし、胃酸が逆流しやすくなります。

食道裂孔ヘルニアは若い方でもありますが、高齢の方や背中の曲がっている方で多くなっています。

さらに近年、もう一つ重要な逆流防止機構の低下の要因として、一過性LES弛緩が注目されています。

本来、口から食道、そして胃へと順番に食べ物が来るという伝言ゲームの結果として、食道と胃のつなぎ目は食べ物の通過を許可しています。

一過性LES弛緩のある方では、この伝言ゲームを無視して好きなときに食べ物の通過を許可してしまいます。

一過性LES弛緩と言ってもピンとこないと思いますが、ゲップをイメージしてください。

ゲップが出るときは食べ物が通過するときでもなく自然と出てきますよね。

あの感じで空気と一緒に胃酸が逆流することが一過性LES弛緩です。

肥満はこの一過性LES弛緩を増悪させますので、太りすぎはここでもご注意です。

食道クリアランス機構

胃酸が食道に逆流することは珍しいことではありませんが、通常は逆流した胃酸を食道から胃にしっかりと押し流すことが出来て、これを食道クリアランス機構と呼びます。

先ほどの一過性LES弛緩で胃酸が戻ってきても、速やかに胃に胃酸を戻すことが出来れば、食道が胃酸に曝露される時間は長くならず、食道粘膜が傷つくこともありません。

しかし、食道の動きが上手くいかず、クリアランス機構が低下すると、食道が胃酸に曝露される時間が長くなり、食道粘膜が傷つきます。

クリアランス機構が低下する原因としては、加齢、睡眠、喫煙などが挙げられます。

まずは胃カメラを受けましょう

H.pylori未感染の方が増加するにつれ、今後もGERDの患者さんは多くなることが予想されています。

それでもH.pylori感染者がいきなりゼロになるわけではないので、まずは胃カメラを受けて、H.pylori感染の有無を確認することが重要であると言えるでしょう。

そのうえでH.pylori感染があれば除菌治療を開始しますし、現感染でなければ胃酸分泌抑制薬を中心とした内服薬でのコントロールを目指します。

知覚過敏が原因の場合は治療が難渋することも多くありませんが、作用機序の違う内服薬でコントロール出来ることが多いので、お気軽にご相談ください。