「もしかしてIBS?」—過敏性腸症候群の診断は思った以上に厄介です

過敏性腸症候群(IBS)は、お腹の痛みや便通の異常が繰り返し起こる病気です

これは、消化器に特に異常が見られない機能性の問題です

大きな異常がないので簡単に思われがちなIBSの診断がいかに難しいか、下痢型IBSと他の病気との違いを考えながら説明します

つらいけど軽視されがち?—IBSとは何か

IBSは、日常生活でよく見られる消化器の問題です

現在、IBSの診断にはRomeIVという基準が使われています

この基準では、過去3ヶ月間に週1回以上の腹痛があり、以下の3つのうち2つ以上を満たす場合にIBSと診断されます:

  1. 排便によって症状が軽くなる
  2. 排便の頻度が変わる
  3. 便の形状が変わる

以前の基準と比較すると、腹部不快感ではなく腹痛の有無が重要になっています

そのため、現在のRomeIVでは以前よりも有病率が低くなる可能性があります

IBS診断の第一歩—器質的疾患を見逃さない!

17医療機関で大腸カメラを施行した4528人を対象におこなった調査があります

この調査では、以前のRomeIIIの診断基準に合致した207人のうち21人(10.3%)には大腸カメラで器質的疾患が認められました

つまり、症状を中心に診断を行うRome基準では、大腸の器質的疾患が十分に除外されていないのです

症状だけでIBSだと思い込んで、整腸剤だけで様子を見ていたら、他の病気…ということも珍しくありません

似て非なる?—IBSの見極めと他疾患との鑑別法

IBSの診断には、まずは症状の確認が重要です

例えば、発熱や血便、体重減少などの症状がある場合は注意が必要で、他の病気の可能性も考えられます

50歳以上や大腸がんの家族歴があればそれだけで大腸カメラを受けた方がよいかもしれません

年齢によっても検査の必要性もハードルも変わってきますが、必要に応じて、大腸カメラを行い、他の病気を除外することが大切です

そこには何もないことを確認することで得られる安心も含まれます

下痢型IBSのリアル—日常生活を揺るがす症状の特徴とは

IBSにはいくつかのタイプがありますが、下痢型IBS(IBS-D)は、軟便や水様便が多く見られるタイプです

IBS-Dと似た症状を持つ病気には以下のような病気が挙げられ、非常に多岐に渡ります

  • 大腸がん
  • 腸管感染症
  • 炎症性腸疾患
  • 好酸球性消化管障害
  • 薬剤起因性腸炎
  • 顕微鏡的大腸炎
  • ベーチェット病
  • セリアック病
  • アミロイドーシス など

これらの病気を区別するためには、血液検査や便の検査、大腸カメラが必要です

大腸カメラの際に組織検査で病気の有無を確認する場合もあります

IBDとの“微妙な関係”を探る—見分け方と注意点

クローン病や潰瘍性大腸炎は年々患者さんが増えています

一方で、過敏性腸症候群(IBS)はそれ以上に日常的によく見られる病気で、この2つの病気を区別することはとても大切です

IBSとIBDはどちらも慢性的な下痢を引き起こしますが、IBSは器質的な病気ではありません

一方、IBDは下痢や腹痛に加えて、血便、発熱、体重減少、痔瘡、腸管外合併症などの症状が見られることが多いです

しかし、血便や発熱がない非典型的なIBDの場合、IBSとの区別が難しいのでお困ったもんです

結局のところ、IBSの診断に重要な検査は大腸カメラになります

特に主なIBDでは、潰瘍やびらんなどの特徴的な粘膜病変が見られるため、病理組織検査と合わせてIBSとの区別が可能です

しかし、IBSやIBDの患者さんは若い人も多く、大腸カメラを行うことに気が進まない方も少なくありませんので、当院では検査をするタイミングもしっかりと相談させて頂きます

IBSは、これまで器質的な異常がないと考えられてきましたが、最近の研究で一部のIBSには炎症や免疫の異常が関わっていることが分かってきました

特に、腸の感染症にかかった後に発症するPI-IBS(感染後IBS)では、腸の粘膜に免疫細胞が増えることが確認されています

また、PI-IBSの患者では、腸だけでなく全身の免疫系も活性化していることが報告されています

さらに、PI-IBSの患者には下痢型IBSが多いことも分かっています

腸の感染症にかかった人たちの中にはIBDを発症する率が高いことが報告されており、IBSとIBDが重なる可能性も考えられています

まとめ:IBSを正しく診断することが、安心への第一歩

器質的疾患ではないIBSですが、意外に診断が難しく、IBDと同様に私たちのようなIBD専門家の知識が必要となる場合もあることをご理解頂けたでしょうか

RomeIVは確かに症状だけで診断できる基準になっています

しかし、大前提として器質的疾患がないということが挙げられます

一人でIBSと診断する前にしっかりと検査、診断を受けることをご検討ください